星の一生の最期に新たな形態が存在
ー中性子星の誕生が引き起こすガンマ線バーストと超新星の発見ー
注意事項
解禁日は平成18年8月31日(木)午前2時
発表日時
平成18年8月28日(月) 13:30-14:30
発表場所
東京大学理学部1号館中央棟2階231号室(第4会議室)
発表者
- 野本 憲一 (東京大学大学院理学系研究科 教授)
- 冨永 望 (東京大学大学院理学系研究科 日本学術振興会特別研究員 DC1)
- 田中 雅臣 (東京大学大学院理学系研究科 修士課程2年)
- 前田 啓一 (東京大学 日本学術振興会特別研究員 PD)
発表概要
2006年2月18日に発生したガンマ線バーストは、ガンマ線バーストの中でもエネルギーが小さい
X線フラッシュと呼ばれるものでした。我々はこれに付随した超新星を世界に先駆けて詳細に観測し
(図1)、
理論モデルを構築した結果、この超新星を起こした星が中性子星を中心に残すような
軽い星(太陽の20倍)であることを導きだしました。
これまで一般的にガンマ線バーストに付随するような超新星はどれも質量の重い
(太陽の30倍以上)星で、中心にはブラックホールが残されると考えられていました。
また、太陽の30倍よりも軽い星は中性子星を残し、
通常の超新星にしかならないと考えられていました。
今回の結果は中性子星を残すような軽い星も、ガンマ線バーストのような大爆発で
その一生を終える場合があることを示した初めての例であり、
重い星の一生の最期に新たな形態が存在することを発見したことになります。
このような爆発は通常のガンマ線バーストよりも約100倍頻繁に起こることも明らかになり、この高い頻度は、今回のようなタイプの爆発が宇宙における重元素の生成など、宇宙全体の進化に与える影響も大きいことを示唆しています。
発表内容
ガンマ線バースト(1)とは、
宇宙から大量のガンマ線が突然降り注ぐ現象です。
ガンマ線バーストの起源は30年来の謎でしたが、BeppoSAX衛星やHETE-2衛星などを用いて
世界中でさかんに研究され、それらの衛星による迅速な位置決定と地上望遠鏡の追観測により、
太陽が今の明るさで一生(約100億年)かけて放出するエネルギーを
わずか数秒の間に開放する宇宙空間で最も激しい爆発現象であることが分かりました。
さらに、最近の観測的・理論的研究により、
星の最期である超新星爆発(2)がガンマ線バースト
の正体であることが明確になってきました。
超新星が付随したガンマ線バーストはこれまでに3例観測されていますが、
いずれの爆発も、太陽の40倍程度の巨大質量の星が一生の最期に重力崩壊して起こす
巨大爆発であることが分かっていました。
ガンマ線バーストはその時に形成されるブラックホールをエンジンとして起こる、というのが従来の理解でした。
ガンマ線バーストの観測例が飛躍的に増加するに伴い、ガンマ線バーストと同様の現象ですが、
放射されるエネルギーのピークが
X線にあるX線フラッシュ(3)が発見されました。
2006年2月18日に約4億光年の彼方で発生したガンマ線バースト(GRB060218)が
Swift衛星により発見され、このX線フラッシュであることが判明しました。
世界中で追観測が行なわれ、超新星(SN 2006aj)が付随していることも明らかになりました。
野本教授を中心とするグループは、ヨーロッパ南天文台の所有するVery Large Telescopeを
使って、この超新星の詳細な観測を行い、この超新星の可視光観測データをもとに、
この爆発を起こした親星の理論モデルを構築しました。
観測の結果、この超新星は、通常の超新星よりは大きな規模の爆発である
極超新星(4)の特徴をもっていますが、
これまでの極超新星とは重要な違いがあることが分かりました。
すなわち、(1)この超新星の光度曲線は、これまでガンマ線バーストに付随した超新星
(極超新星)の光度曲線よりも
早く変化する(図2)、
(2)また、そのスペクトルには、これまでに観測された極超新星に普遍的に見られた
酸素の強い吸収線がほとんど存在せず(図3)、従って酸素の含有量が非常に小さい、ということです。
これらはどちらも爆発した星の質量が比較的小さいことを示唆しています。
研究グループは理論計算により、この特徴を満たすような超新星爆発の親星と爆発の特徴を
導き出しました。 その結果、この超新星(SN 2006aj)の親星はこれまでガンマ線バーストを
引き起こすと考えられていた星(太陽の約40倍)よりも半分程度の軽い星(太陽の約20倍)
でなければならず、そのような軽い質量の星は重力崩壊の際にブラックホールではなく、
中心に中性子星を形成することが明らかになりました。
また、今回のような弱いガンマ線バースト、X線フラッシュをおこす爆発は、
これまで報告されていたガンマ線バーストの頻度の 100倍程度と推定できる、
ということも明らかになりました。
これまで大質量星の進化の最期のパターンとして、
(1)太陽の30倍程度より軽い星は中性子星を形成して、通常の超新星となり、
(2)それより重い星はブラックホールを形成し、その多くは爆発せず、
一部はガンマ線バーストを起こして極超新星となる、と考えられてきましたが、
今回の発見によって、(1)の中性子星を形成する場合に
「ガンマ線バーストを起こして激しく爆発する超新星になる」という新たなパターンが
存在することが明らかになりました(図4)。
これは超新星の爆発機構やガンマ線バーストの
発生機構の解明(図5)
や宇宙の元素の起源の解明にも重要なヒントを与えたことになります。
この成果は8月31日付けの英国科学誌Natureに掲載されました。
より詳細な解説はこちらをご覧ください。
- 星の進化と超新星爆発
- ガンマ線バーストと超新星
- 今回のガンマ線バーストとそれに付随した超新星
- 超新星観測結果の解釈
- 結論
- 今後に与えるインパクト
発表雑誌
(1)
タイトル
A neutron-star-driven X-ray flash associated with supernova SN 2006aj
(超新星SN2006ajに付随した中性子星起源のX線フラッシュ)
著者
Paolo A. Mazzali, Jinsong Deng, Ken’ichi Nomoto,
Daniel N. Sauer, Elena Pian, Nozomu Tominaga, Masaomi Tanaka,
Keiichi Maeda, & Alexei V. Filippenko
(2)
タイトル
An optical supernova associated with the X-ray flash XRF 060218
(X線フラッシュ060218に付随した超新星)
著者
E. Pian, P. A. Mazzali, N. Masetti, P. Ferrero, S. Klose,
E. Palazzi, E. Ramirez-Ruiz, S. E. Woosley, C. Kouveliotou, J. Deng,
A. V. Filippenko, R. J. Foley, J. P. U. Fynbo, D. A. Kann, W. Li,
J. Hjorth, K. Nomoto, F. Patat, D. N. Sauer, J. Sollerman,
P. M. Vreeswijk, E. W. Guenther, A. Levan, P. O’Brien, N. R.
Tanvir, R. A. M. J. Wijers, C. Dumas, O. Hainaut, D. S. Wong,
D. Baade, L. Wang, L. Amati, E. Cappellaro, A. J. Castro-Tirado,
S. Ellison, F. Frontera, A. S. Fruchter, J. Greiner,
K. Kawabata, C. Ledoux, K. Maeda, P. Moller, L. Nicastro, E. Rol
& R. Starling
英国科学誌Natureに8月31日号に掲載予定
問い合わせ先
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 教授
野本 憲一
03-5841-4255 (オフィス)
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 日本学術振興会特別研究員(DC1)
冨永 望
03-5841-4267 (オフィス)
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 修士課程2年
田中 雅臣
03-5841-4265 (オフィス)
東京大学大学院合総合文化研究科 日本学術振興会特別研究員(PD)
前田 啓一
03-5454-6618(オフィス)
用語解説
- ガンマ線バースト:
高いエネルギーの電磁波であるガンマ線が約0.01秒から数
100秒間にわたって観測される現象。継続時間が2秒以上のものはロングガンマ線バー
スト、2秒以下のものはショートガンマ線バーストと呼ばれています。今回のバース
トはロングガンマ線バーストに分類されるものであったため、ここでは単にガンマ線
バーストと呼んだときロングガンマ線バーストを指すものとします。
- 超新星爆発:
太陽よりも質量が8倍以上重い星は、その進化の最期に重力崩壊を
起こし、超新星として観測されます。ガンマ線バーストとは異なり、超新星は電磁波
の中でも可視光でほとんどのエネルギーを放射し、数日間で太陽の10億倍程度まで明
るくなります。
- X線フラッシュ:
X線フラッシュはガンマ線バーストとは異なり、ガンマ線より
もエネルギーの低い電磁波であるX線を主に放射する現象です。
- 極超新星:
ガンマ線バーストに付随した超新星は、通常の超新星よりも10倍程度
運動エネルギーが大きく、これを極超新星と呼びます。
「ガンマ線バーストは極超新星が起源?!」
すばる望遠鏡観測成果 2003年6月13日掲載
「すばるがとらえたガンマ線バースト母天体の横姿」
東京大学理学系研究科プレスリリース2005年5月27日掲載
添付資料
- 図1:
ガンマ線バーストが現れる前(左)とガンマ線バーストが現れた後(右)の空。
右の写真の中央付近に十字線で示されている「青い星」がガンマ線バーストの残光。
(ヨーロッパ南天文台提供)

(左)超新星が発見される前の空の領域。丸で囲んであるのが超新星が現れた母銀河。(画像はDSS2より)
(右)チリのVery Large Telescope (VLT)で観測されたGRB060218に付随した超新星
SN 2006ajの可視光イメージ。
矢印で示されているのが超新星からの光。
どちらも一辺が1分角(月の直径のおよそ30分の1)。
低解像度(683x415)
高解像度(2733x1611)
(画像を使用する場合は、「ヨーロッパ南天文台 提供」
などとしてください。)
- 図2:
SN 2006ajの明るさの変化の仕方(青色)。
横軸が爆発からの日数で、縦軸は(それぞれの超新星が3万3000光年先にあった場合の)等級。
-15.25等級で-17.75等級で太陽の約10億倍の明るさ。
極超新星であるSN 1998bwの変化(緑色)よりも早く、通常の超新星であるSN 1994I(ピンク色)の変化よりも遅い。
赤い線が我々の理論モデル。

- 図3:
SN 2006ajからくる光を波長ごとに分けたもの(スペクトル)。
SN 2006ajのスペクトル(青色)には酸素の吸収線がほとんどなく、これは明るくてかつ、質量が軽いことを意味する。
吸収線の位置は膨張する速度の指標となり、速度が速い方から極超新星SN 1998bw(緑色)、SN 2006aj(青色)、通常の超新星SN 1994I(ピンク色)。

- 図4:
親星の質量と星の最期の形態。左上のパターンはこれまで考えられていなかった。

- 図5:
ガンマ線バーストの発生機構の模式図。
ガンマ線バーストはブラックホールを形成するような超新星爆発から引き起こされると考えられてきたが、
中性子星の形成からもそのような大爆発(少なくともX線フラッシュの一部)が起こると考えられる。

Masaomi Tanaka
Department of Astronomy, Graduate School of Science,
University of Tokyo