史上最も明るいIa型超新星爆発

ーこれまでの「限界」を超えた超新星の発見ー


目次


(右の画像)
東広島天文台かなた望遠鏡で撮影された 史上最も明るいIa型超新星SN 2009dcの画像(2本の線で示されているのが超新星)。

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超新星を示す線がないもの
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広島大学山中氏による国内望遠鏡を用いた観測についての解説は こちら をご覧下さい。

東京大学数物連携宇宙研究構機(IPMU) ニュース&インフォメーション

概要

 Ia型超新星は、白色矮星と呼ばれる非常に密度の大きな星が、 ある限界の質量まで太ったときに起こす大爆発と考えられています。 東京大学・広島大学などの研究者からなるグループは、 今年4月に発見された超新星「SN 2009dc」に対して、 広島大学かなた望遠鏡、県立ぐんま天文台など国内の望遠鏡とすばる望遠鏡を駆使して 大規模な観測を行いました。その結果、研究グループはこの超新星が太陽の 約80億倍の明るさを放つ、史上最も明るいIa型超新星であることを発見しました。 さらに、その正体が「限界」を越えた質量をもつ白色矮星の爆発であることを突き止めました。 これまで、Ia型超新星は一定の質量をもち、ほぼ一定の明るさをもつことから、 遠方宇宙までの距離を測定し、宇宙の膨張史を辿る研究に用いられてきました。 今回発見された「限界」を越えたIa型超新星の存在は、 そのような研究の基礎に関わる問題であり、今後の研究に大きなインパクトを与えるものです。

 この研究成果は2009年9月14日から開催される、 日本天文学会秋季年会において発表されます。
 ・口頭講演K13a 山中雅之他 「極めて明るいIa型超新星SN 2009dcの可視近赤外観測」
 ・口頭講演K14a 田中雅臣他 「極めて明るいIa型超新星SN 2009dcの偏光分光観測:親星はチャンドラセカール質量を越えているか?」

 解禁日:平成21年9月14日午前4時 (14日朝刊より)


解説

1. Ia型超新星とは?

 Ia型超新星は、白色矮星と呼ばれる非常に高密度の天体が起こす大爆発です。 その明るさは想像を絶するもので、太陽の30億倍にもなります。 さらに、Ia型超新星はどれも似た明るさをもつことから、 遠方宇宙までの距離を測る道具として使われてきました。 宇宙は137億年前に誕生したと考えられていますが、Ia型超新星を使うことで、 約100億年前までの宇宙の膨張史を遡って研究することができます。 その結果、現在の宇宙がダークエネルギーによって加速的に膨張していることが 明らかになっています。

 Ia型超新星がどれも似ているのには理由があります。 白色矮星は右の図のような連星系にある場合に、 伴星から物質が降り積もることで爆発に至ります。 爆発の瞬間には、白色矮星は可能な限りギリギリまで太っています。 白色矮星は縮退圧という量子力学的な力で自分の重さを支えており、 限界の質量は太陽の1.4倍と分かっています。 これはスブラマニアン・チャンドラセカールが導いたことから 「チャンドラセカールの限界質量」と呼ばれています。 ちなみに、チャンドラセカールは天体物理学への貢献により、 1983年にノーベル物理学賞を受賞しました。

2. 史上最も明るいIa型超新星 SN 2009dc

国内望遠鏡による観測
(研究グループ代表:山中)

山中氏による国内望遠鏡を用いた観測についての解説は こちら をご覧下さい。

 2009年4月にかんむり座の方向、我々から約3億光年先にある銀河UGC 10064に 超新星「SN 2009dc」が発見されました。 本研究グループは、広島大学かなた望遠鏡(右の画像)と、 県立ぐんま天文台、国立天文台岡山観測所、鹿児島大学の望遠鏡を用いて、 この天体の徹底的な観測を行いました。 その結果、この超新星の明るさが太陽の80億倍にもなり、 Ia型超新星としては史上最も明るいことを発見しました。 この明るさを放つには、太陽の約1.6倍の質量の熱源が必要とされます。 すなわち、チャンドラセカールの導いた限界を超えなければならないのです。

すばる望遠鏡による観測
(研究グループ代表:田中)

より詳細な解説は こちら をご覧下さい。

 このようなチャンドラセカールの限界を超えていると思われる天体の発見に対し、 ドイツのグループから反論が出されていました。 それは、超新星爆発が非常に歪んだ形をしているために、 明るく「見えている」だけである、という説です。 残念ながら、超新星は3億光年の彼方で起こっているので、 その大きさは1度の10億分の1程度の大きさにしかなく、形を見ることはできません。

 そこで、研究グループは国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡を用いて 光の「偏り」を測定しました(右の図)。 超新星が歪んでいると、縦方向に振動する光と、横方向に振動する光の強度が異なります。 すばる望遠鏡の大口径を生かした精密な測定の結果、光の偏りは0.3%以下 と非常に小さいことが明らかになりました。超新星は歪んでおらず、 ほとんどまん丸だったのです。

3. 限界を超えたIa型超新星のインパクト

 国内の望遠鏡を駆使した徹底観測とすばる望遠鏡を用いた精密観測によって、 SN 2009dcが史上最も明るい超新星であり、 チャンドラセカールの限界質量を超えていることが明らかになりました。

 これまでIa型超新星はチャンドラセカール限界質量をもつと思われてきたため、 この発見によって、Ia型超新星に至るまでの白色矮星の進化のシナリオは見直しを 迫られることになります。ただし、チャンドラセカールの理論が間違っていたわけではありません。 白色矮星が高速で回転している場合には、太陽の1.4倍の質量を超えられることが分かっています。 今後、このような星がIa型超新星として爆発する経路を探索する研究が発展すると考えられます。

 また、Ia型超新星はどれもチャンドラセカールの限界質量で爆発すると思われていたため、 その明るさが似ており、宇宙膨張の歴史を探る研究に使われてきました。 限界を超えた超新星が起こり得るということが、宇宙膨張史の研究に どのような影響を与えるのか、今後検証する必要があります。


問い合わせ先

(メールアドレスは#を@に変えて下さい)

田中 雅臣
(東京大学大学院 理学系研究科天文学専攻・博士課程後期3年)
Tel: 03-5841-4267
Email: mtanaka#astron.s.u-tokyo.ac.jp

山中 雅之
(広島大学 理学研究科物理科学専攻・博士課程後期2年)
Tel: 0824-24-7379
Email: myamanaka#hiroshima-u.ac.jp

川端 弘治
(広島大学 宇宙科学センター・准教授)
Tel: 0824-24-5765
Email: kawabtkj#hiroshima-u.ac.jp


研究グループ

(50音順)
  青木賢太郎 (国立天文台 ハワイ観測所・研究員)
  新井彰 (広島大学 理学研究科 物理科学専攻・博士課程後期3年)
  家正則  (国立天文台 光赤外研究部・教授)
  池尻祐輝  (広島大学 理学研究科 物理科学専攻・博士課程前期2年)
  伊藤亮介 (広島大学 理学研究科 物理科学専攻・博士課程前期1年)
  今田明 (国立天文台 岡山天体物理観測所・研究員)
  植村誠 (広島大学 宇宙科学センター・助教)
  大杉節 (広島大学 宇宙科学センター・特任教授/センター長)
  面高俊宏 (鹿児島大学 理工学研究科 物理科学専攻・教授)
  鎌田有紀子 (国立天文台 先端技術センター・技術員)
  河合誠之 (東京工業大学 理工学研究科 基礎物理学専攻・教授)
  川端弘治  (広島大学 宇宙科学センター・准教授)
  衣笠健三 (県立ぐんま天文台 観測普及研究係・副主幹)
  黒田大介  (国立天文台 岡山天体物理観測所・研究員)
  小松智之 (広島大学 理学研究科 物理科学専攻・博士課程前期1年)
  坂井伸行 (鹿児島大学 理工学研究科 物理科学専攻・博士前期課程)
  佐々木敏由紀(国立天文台 ハワイ観測所・准教授)
  笹田真人 (広島大学 理学研究科 物理科学専攻・博士課程後期1年)
  鈴木麻里子 (トヨタテクニカルディベロップメント株式会社)
  高橋英則 (県立ぐんま天文台 観測普及研究係・主任)
  田口光 (県立ぐんま天文台 観測普及研究係・主任)
  田中祐行 (松芝エンジニアリング株式会社)
  田中雅臣  (東京大学大学院 理学系研究科天文学専攻・博士課程後期3年)
  千代延真吾 (NECシステムテクノロジー株式会社)
  永江修 (広島大学 理学研究科 物理科学専攻・日本学術振興会特別研究員PD)
  中屋秀彦 (国立天文台 先端技術センター・助教)
  野本憲一 (東京大学 数物宇宙連携機構・特任教授)
  橋本修 (県立ぐんま天文台 観測普及研究係・主幹)
  服部尭 (国立天文台 ハワイ観測所・研究員)
  深沢泰司 (広島大学 理学研究科 物理科学専攻・教授)
  本田敏志 (県立ぐんま天文台 観測普及研究係・主任)
  前田啓一 (東京大学 数物宇宙連携機構・特任助教)
  宮崎聡  (国立天文台 先端技術センター・准教授)
  宮本久嗣  (日本モレックス株式会社)
  柳澤顕史 (国立天文台 岡山天体物理観測所・助教)
  山下卓也 (国立天文台 ELTプロジェクト室・教授)
  山中雅之  (広島大学 理学研究科物理科学専攻・博士課程後期2年)
  吉田道利 (国立天文台 岡山天体物理観測所・准教授/所長)
  Paolo A. Mazzali (ドイツ マックスプランク天体物理学研究所)
  Elena Pian   (イタリア 国立ピサ高等研究院)
Masaomi Tanaka
Department of Astronomy, Graduate School of Science, University of Tokyo