すばる望遠鏡による「形状」の測定
本当にチャンドラセカールの限界を超えているか?
国内の望遠鏡を用いた観測により (詳細は山中氏による解説をご覧下さい)、 超新星「SN 2009dc」は史上最も明るいIa型超新星であることが分かりました(参考文献1)。 しかし、このような天体が本当にチャンドラセカールの限界を超えているかについては、 ここ数年間議論が続いていました。以前にもSN 2009dcには及ばないものの、非常に明るい超新星 SN 2003fgとSN 2006gz が発見されており、これらもチャンドラセカール質量を超える候補とされていました(参考文献2,3)。 しかし、このような天体に対して、ドイツのグループから反論が出されていました(参考文献4)。 それは、超新星爆発が非常に歪んだ形をしているために、 明るく「見えている」だけで、チャンドラセカールの限界は超えていないという説です。 残念ながら、超新星は3億光年の彼方で起こっているので、 その大きさは1度の10億分の1程度の大きさにしかなく、形を見ることはできません。
そこで、研究グループは国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡を用いて 光の「偏り」を測定しました(参考文献5)。 超新星が歪んでいると、縦方向に振動する光と、横方向に振動する光の強度が異なります (右の図で右上の場合)。一方で、超新星がまん丸であれば、縦方向に振動する光と 横方向に振動する光の強度は同じはずです(右の図で左上の場合)。 すなわち、偏りが検出されればドイツのグループの主張が正しく、 検出されなければやはりチャンドラセカールの限界を超えている、 ということになります。 これまでの2例の候補に対してはこのような光の偏りの観測は行われておらず、 われわれの観測が世界初となりました。
すばる望遠鏡の大口径を生かした精密な測定の結果、光の偏りは0.3%以下 と非常に小さいことが明らかになりました(下の図)。 超新星は歪んでおらず、ほとんどまん丸だったのです。 この世界初の測定により、史上最も明るいIa型超新星SN 2009dcが、 チャンドラセカールの限界を超えている、ということが確定的になりました。
右の図の説明
すばる望遠鏡FOCASで観測したSN 2009dcのスペクトル(光を波長ごとに分けたもの、上のパネル)と、 それぞれの波長における光の偏りの度合い(下のパネル)。
元素により吸収を受けている箇所は、その吸収によって光の偏り具合が影響されるので、 赤で示された吸収のない波長域の偏りが超新星の形の指標となります。 図より、光の偏りがわずか0.3%以下しかないことが分かります(赤い点線)。
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参考文献
- Yamanaka et al. 2009, submitted to Astrophysical Journal (arXiv:0908.2059)
- Howell et al. 2006, Nature, 443, 308
- Hicken et al. 2007, Astrophysical Journal, 669, 17
- Hillebrandt et al. 2007, Astronomy & Astrophysics, 465, L17
- Tanaka et al. 2009, submitted to Astrophysical Journal (arXiv:0908.2057)
研究グループ(すばる望遠鏡による観測グループ)
(50音順)青木賢太郎 (国立天文台 ハワイ観測所・研究員) 家正則 (国立天文台 光赤外研究部・教授) 川端弘治 (広島大学 宇宙科学センター・准教授) 佐々木敏由紀(国立天文台 ハワイ観測所・准教授) 田中雅臣 (東京大学大学院 理学系研究科天文学専攻・博士課程後期3年) 野本憲一 (東京大学 数物宇宙連携機構・特任教授) 服部尭 (国立天文台 ハワイ観測所・研究員) 前田啓一 (東京大学 数物宇宙連携機構・特任助教) 山中雅之 (広島大学 理学研究科物理科学専攻・博士課程後期2年) Paolo A. Mazzali (イタリア トリエステ天文台・准教授) Elena Pian (イタリア トリエステ天文台・准教授)Masaomi Tanaka
Department of Astronomy, Graduate School of Science, University of Tokyo